カスタマーサクセスとコンサルティングの違いとは?(業務連携、職業適性、キャリアチェンジ、組織づくりについて)
カスタマーサクセスの歴史はまだ浅いため、職業としての明確なイメージが定まっていません。さらにカスタマーサクセスの業務では幅広い業務知見が求められることも多く、業務パフォーマンスの個人差が大きくなってしまいます。
これがカスタマーサクセスに対する認識が定まっていない要因です。それでは、カスタマーサクセスとは一体どんな職種なのか?
カスタマーサクセス業務の理解の解像度を高めるためには、カスタマーサクセスの業務を知る以外にも既存職種と比較することで活動内容がより捉えやすくなります。
「カスタマーサクセスと営業の違いとは? 」で説明したとおり、カスタマーサクセスは場面に応じて多様なスキルが必要になるのです。
今回は、コンサルティングとカスタマーサクセスの違いについて説明します。
目次
カスタマーサクセスとコンサルタントはどこが違う?
カスタマーサクセスでは、顧客の事業目標に対して成果を出せるよう伴走していくため、問題解決に一緒に取り組みます。また「顧客の課題をどうやったら解決できるか」といった解決の道筋を考える戦略面のサポートもカスタマーサクセスの仕事です。これはコンサルタントの仕事に近いといえるでしょう。
問題解決のための活動は、カスタマーサクセスもコンサルタントも同じです。
カスタマーサクセスとコンサルティングは非常によく似ていますが、取り扱う商材と顧客との関わり方の2つの違いがあります。
取り扱う商材については、カスタマーサクセスは自社のサービスであり、コンサルタントは自身の知見やノウハウです。
カスタマーサクセスでは自社のサービスが解決できる問題に範囲が限定される一方、コンサルタントは広い範囲の問題を扱い、解決策そのものを創り出す必要があるため、一般的により高い問題解決能力が求められます。
また顧客との関わり方として、コンサルティングは立案した解決策の実行を顧客に委ねることが多いです。もし解決策の実行まで踏み込むのであれば、顧客伴走するカスタマーサクセスに近くなります。
つまり、顧客を成功に導くために必要な問題解決の戦略立案フェーズから、実行フェーズまで引き受けるかどうかが、カスタマーサクセスとコンサルタントの違いです。
このように相違点はあるものの、カスタマーサクセスとコンサルタントに求められるスキルはとても似ています。
カスタマーサクセスとコンサルタントの連携を成功させる秘訣
業務内容が近いカスタマーサクセスとコンサルタントですが、実は両者の連携は非常に重要です。両者の連携は戦略立案フェーズと実行フェーズに分けて考えると理解しやすいでしょう。
まず戦略立案フェーズは、顧客の問題解決の知見やノウハウが求められます。特にサービス提案の型化が難しいサービスほど知見やノウハウが重要になります。
しかし、カスタマーサクセスはサービスに対して顧客から対価を頂くため、現状はカスタマーサクセス自身の知見やノウハウが商材となっていないことが多いです。
カスタマーサクセスは「無償のコンサルティング」と称されるように、コンサルタントであれば高い対価を得る内容の仕事をしても1円もいただけない場合があります。カスタマーサクセスが戦略立案フェーズに対応すると、この収益構造の問題が常について回るのです。
次に実行フェーズは、問題解決を実現するサービス自体が商材となります。こちらはカスタマーサクセスの本業領域です。
そのため、戦略立案フェーズでの戦略立案をコンサルタントが引き受ければ、次の実行フェーズでカスタマーサクセスと連携しやすくなります。
なお無償のコンサルティングは、顧客にとってメリットはあるでしょうが、価値のある仕事に正当な対価が発生しなければ、ビジネスモデルは継続・維持できません。そのため米国では、ハイタッチの有償化は重要な問題として議論されています。
カスタマーサクセスに向いている人、コンサルタントに向いている人
カスタマーサクセスとコンサルタントに必要な職務スキルは非常に似ており、問題解決力があれば、どちらの職業でも活躍できる可能性が高いです。
強いていうならば、顧客の問題解決に興味があればコンサルタント向きで、顧客自体に興味があればカスタマーサクセス向きとなるでしょう。
コンサルタントからカスタマーサクセスへのキャリアチェンジ
カスタマーサクセスとコンサルタントに必要なスキルは非常に似ていますが、その中でも細かな違いはあるため、双方のキャリアを経験することは有益です。
カスタマーサクセスからコンサルタントへのキャリアチェンジであれば論理的思考力の向上や問題解決の高度な知見とノウハウの習得が期待でき、コンサルタントからカスタマーサクセスへのキャリアチェンジであればコミュニケーション力の向上が期待できます。
特にコミュニケーション力は顧客伴走には欠かせません。
顧客伴走するためには顧客との信頼関係が必須であり、顧客が合意する状況をつくる必要があります。そのためには正解だけにとらわれず、顧客が納得する解を提案することが重要です。
いくら論理的に正しくても感情的に顧客が納得できない解決策であれば、その解決策は決して実行されません。論理的思考力だけは顧客伴走は成功しないのです。
コンサルティング組織内にカスタマーサクセス組織をつくるために必要なこと
コンサルティング組織内にカスタマーサクセス組織を立ち上げるためには、従来の活動にカスタマーサクセス活動をどうやって追加していくかが重要です。
一つは、実行フェーズのサービス価値を高めるために、コンサルタントの知見やノウハウを活用することが考えられます。
つまり戦略立案フェーズにとどまらず実行フェーズも含めてコンサルティング組織が引き受けるということです。
「カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違いとは?」でも説明したとおり、外資系企業ではカスタマーサクセスのコンサルティング業務に対する有償化が始まっており、ビジネスモデルが成立しています。
これはカスタマーサクセス組織がコンサルティング業務まで拡張するという話でしたが、戦略立案したコンサルタントがサービス活用まで責任をもって対応するほうが既にコンサルティングの対価を支払っている顧客にとっては受け入れやすいかもしれません。
今後は、このようなコンサルティング組織の業務拡張でカスタマーサクセス組織が立ち上がっていくことは十分考えられるでしょう。
コンサルタントはカスタマーサクセスをめざすべし
コンサルタントとカスタマーサクセスは近い存在ですが、決して同じではありません。しかし業務内容が重なっていくほど、どちらかの職種に集約されていくことでしょう。
もし集約されるとしたら、コンサルタントがカスタマーサクセスになるかもしれません。その理由はコンサルティング業界が抱える構造的なジレンマがあるからです。
このジレンマはコンサルティング業界のビジネスモデルに起因しています。これまで説明したとおり、コンサルタントは顧客が必要とする知見やノウハウを提供して対価を得ています。自身が商材となるため、自分の時間を切り売りする人月ビジネスにならざるを得ません。
このビジネスモデルで組織を拡大すると、一部の優秀なコンサルタントが組織全体を養う必要がでてくるため、コンサルタントの単価が高くなっていきます。
そうするとコンサルティングファームの視点では、高い単価を維持するため、高品質な成果を提供できる優秀なコンサルタントを厳選して抱えこもうとします。いわゆる「アップ・オア・アウト」はそのような背景から生まれた人材雇用方式です。
人気のあるトップコンサルティングファームでは、コンサルタント希望者が多数いるため事業の維持に困らないでしょうが、多くはそうではありません。
このようになると、コンサルタント個人の視点では、自分の会社から評価されなければならず、極端にいうと担当した顧客を逃さないように「あえて顧客の問題を『根本的』には解決しない」ことで、作業工数を増加させ、売上をかさ増しするような行動すら取るようになります。
また、会社の評価は相対的になるため「自分が上手くいった知見やノウハウを他人には隠す」という行動を取ることで、ライバルとなる同僚との差を付けるとともに、自分以外では対応できなくして顧客を囲い込もうとします。
本来であれば、ビジネスを拡大するためには、型化が必要であるにも関わらず、知見やノウハウを隠蔽してしまうのです。コンサルティングの事業構造を考えると「顧客の成功」は事業の維持を阻害する要素にすらなっています。
カスタマーサクセスでは、このようなコンサルティング業界が抱える構造的なジレンマを回避できる可能性があるでしょう。
コンサルタントもカスタマーサクセスのように、サービスのプロダクト価値を上げるために自身の知見やノウハウを積極的に活用して組織内で共有していけば、常に「顧客へ最善の提供価値を届けること」に集中できる組織に成長していきます。
これにより、これまで限られた顧客にしか提供できなかったコンサルタントの価値をより多くの顧客に届けることができるのです。
ある統計によると、カスタマーサクセスへキャリアチェンジしている人材の前職が営業やカスタマーサポートが多い中で、最も活躍している人はコンサルタントだという結果も出ています。
断っておくと、多くのコンサルタントは顧客のために役に立ちたいと考えています。
それゆえに顧客のことを真に考えて活動するカスタマーサクセスの仕事は、コンサルタントにとって、これまで悩まされていたジレンマを解消できる魅力的な選択肢となるでしょう。