カスタマーサクセスと営業の違いとは?(業務連携、職業適性、キャリアチェンジ、組織づくりについて)
カスタマーサクセスの歴史はまだ浅いため、職業としての明確なイメージが定まっていません。さらにカスタマーサクセスの業務では幅広い業務知見が求められることも多く、業務パフォーマンスの個人差が大きくなってしまいます。
これがカスタマーサクセスに対する認識が定まっていない要因です。
それでは、カスタマーサクセスとは一体どんな職種なのか?
カスタマーサクセス業務の理解の解像度を高めるためには、カスタマーサクセスの業務を知る以外にも既存職種と比較することで活動内容がより捉えやすくなります。
カスタマーサクセスは、場面に応じて営業スキル、サポートスキル、マーケティングスキル、コンサルティングスキルなど、多様なスキルが必要になります。ただし、カスタマーサクセスに必要な 営業スキルと営業に必要な営業スキルは必ずしも一致していません。その理由は職業としての活動目的が異なるからです。
今回は、カスタマーサクセスのスキルセットにも触れながら営業とカスタマーサクセスの違いについて説明します。
目次
カスタマーサクセスと営業の違い
カスタマーサクセスは顧客との契約後から業務が始まります。顧客からの解約を防ぎ、契約更新および追加契約につなげることがカスタマーサクセスの主な業務内容です。つまりカスタマーサクセスのミッションは、オンボーディングから伴走して、チャーンさせずにリニューアルしてもらうことになります。
一方、営業は顧客と契約する前の活動が中心です。顧客との関係性を深め、より多くの契約を獲得することが主な業務内容になります。
両者の違いは、活動の主体がサービス契約前と契約後に別れているところです。この違いが一般論としてよく語られますが、顧客との向き合い方がそれぞれの職業で異なっているのです。
カスタマーサクセスは契約後の活動が中心になるので、自社のサービスを使って「顧客が成果を出す」ために活動します。一方で、営業はより多くの顧客に「サービスを導入してもらう」ために活動しています。
つまり両者の活動のゴールが異なっていることが違いを生んでいるのです。
カスタマーサクセスと営業が連携するときの注意点
営業の活動目的は多くの契約を獲得して自社の成長に貢献することであり、カスタマーサクセスの活動目的は顧客の成功です。
顧客の成功とは、顧客が自社サービスを使うことによって顧客が成長していくことです。つまり、カスタマーサクセスは顧客の成長を通じて自社の成長に貢献することになります。
長期視点での目的は自社の成長なので両者は共通していますが、短期視点ではKPIが異なります。営業のKPIは売上であり、カスタマーサクセスのKPIは顧客が成功するための原動力となる自社サービスの継続利用です。
長期視点では目的が一致しているため両者は連携できるはずですが、短期視点で考えた場合には目的が一致していないことで、経営方針によっては連携に不具合が生じる場合があります。
例えば、カスタマーサクセス組織が立ち上がって間もない状況で売上拡大を優先して解約リスクを省みずに契約数だけを追い求める経営方針などです。これはバケツの底が開いているのにもかかわらず、水を汲んでしまう状況だといえるでしょう。
以前は、このような営業とカスタマーサクセスの行動が対立することもありましたが、カスタマーサクセスの認知度が上がるにつれて、こういった問題は減ってきています。
しかし短期視点だけに注目すると、このような対立が起き、連携が難しくなることが懸念されるでしょう。
カスタマーサクセスと営業を業務モデリングで捉える
カスタマーサクセスと営業の業務プロセスをモデリングしてみると、両者の活動は明確に違うことが分かります。なぜなら業務としての活動目的が異なっているからです。目的が異なれば目的達成に必要なインプットも異なります。
ただし、リニューアル業務は曖昧になりがちです。リニューアル業務のタイミングではカスタマーサクセスと営業の役割分担が明確にできず、業務が混同している危険性が高くなります。
そのため営業とカスタマーサクセスが対立しない役割分担を事前に明確にしておくことが重要です。
組織連携を成功させるために大事なこと
リニューアルにおけるカスタマーサクセスと営業の混同は、組織の肩書きと実際の機能がズレていることにより発生します。
このことはカスタマーサクセスと営業に限らず、自社組織の肩書きと実際の機能にズレがあれば発生する可能性があります。そして実際に多くの企業が組織の肩書きと機能が一致していません。
これに対して組織の肩書きと機能を完璧に一致させるのではなく、そもそも一致しないという認識をもつことが重要です。もし組織を完璧に分担すると、完全な縦割りとなって組織間のコミュニケーションが実施されなくなります。
実際には両者が関わる曖昧な業務領域があるからこそ、認識を合わせるためのコミュニケーションが生まれます。建設的なコミュニケーションを行うことによって、完璧に役割が分担されているよりも効果の高い組織連携が可能です。
カスタマーサクセスに向いている人、営業に向いている人
カスタマーサクセスと営業に求められるスキルセットが違うため、両者の適性は異なります。
営業であれば売上達成の行動力が重要視されるため、主体的に行動する狩猟民族的な動きが好きな人が向いています。カスタマーサクセスあれば顧客の目標達成に向かって長期的に顧客を育成していく力が重要視されるため、農耕民族的な動きが好きな人が向いているのです。
特にカスタマーサクセスは、自分が動くのではなく顧客に動いてもらうようサポートしていくコーチング力が非常に重要です。
顧客がやるべきことを代替せずに長期視点で顧客が自律的に活動できるよう間接的に支援していく姿勢が、直接自分が動いて状況を打破する営業と最も異なるところになります。
営業からカスタマーサクセスへのキャリアチェンジ
営業とカスタマーサクセスの適性は異なりますが、営業からカスタマーサクセスにキャリアチェンジをする意味はあるのでしょうか。
カスタマーサクセスを経験することはマネジメント力を養うという面で有益です。どの職種でもマネージャーになると組織パフォーマンスを発揮しなければならないため、間接的な関わりによって成果を出すカスタマーサクセスの経験はマネジメントスキルを養う絶好の機会です。
営業にとってもマネジメントスキルは重要であるため、営業からカスタマーサクセスを経験して、また営業に戻ってもキャリアチェンジの意味はあるでしょう。
では営業からカスタマーサクセスにキャリアチェンジした際に、どのような点に注意が必要でしょうか。
重要なことは「時間軸の捉え方」です。営業であれば一顧客あたりの契約獲得をする活動は月単位の短期サイクルですが、カスタマーサクセスは顧客が目標達成するまで伴走するため、年単位の長期サイクルになります。
これは単純に1ヶ月先だけの成果ではなく、1年後を見据えた直近1ヶ月の成果に対する意識変化が求められます。
この意識をもつためには「あなたは本当に顧客理解できていますか?」で説明した「顧客理解に必要なCSの心得三カ条」を備えていることが必要です。
この三カ条は、顧客理解の解像度を高めるための心得です。すでにこの三カ条を実践している営業であれば、カスタマーサクセスにキャリアチェンジしてもすぐに活躍できるでしょう。
カスタマーサクセスの組織づくりに必要なこと
カスタマーサクセスは営業と比べて認知度や役割理解が浸透していないため、カスタマーサクセスの組織立ち上げが難航することがあります。
サービスビジネスが本業の企業と比べて、事業収益の柱がサービスビジネス以外である企業の場合はこの立ち上げに苦労します。
一番大きな問題は、カスタマーサクセスの役割が明確でないことです。営業の組織づくりに反対されることはまずありませんが、カスタマーサクセスの組織では反発される可能性があります。
この組織づくりに反対されないためには、成功事例によるカスタマーサクセスの必要性を認知させていかなければなりません。特に競合の成功事例や顧客がカスタマーサクセスを求めている具体的な声などは、組織づくりの後押しになるはずです。
カスタマーサクセスの組織を立ち上げたあとは、組織の有用性を証明する必要があります。そのためには社内プロモーションが欠かせません。例えば、営業に対して有用性を認めてもらうとすれば、リニューアル業務での連携を通じたカスタマーサクセスの営業業務への貢献が重要になります。その他の関係する組織に対しても同様に、カスタマーサクセスは他組織のミッションに貢献すべきです。
このように、カスタマーサクセスの役割の理解と有用性の実感をセットにして周囲に説明できれば、組織づくりの壁は乗り越えられるでしょう。