カスタマーサクセスにとって言葉はなぜ大事か?

「カスタマーサクセスの再現性をつくり出す業務モデリング」の記事で、思考の深堀りや顧客理解の解像度を高めるシミュレーションは、カスタマーサクセスにとって有効だと説明してきました。

解像度を高めた次の段階で大切なことは、顧客理解の内容を顧客に伝えて新たな情報を顧客から得ることです。そうして追加で得た情報から新たな成果を作り出していくインプットとアウトプットの循環が欠かせません

この循環を実行していくには、「カスタマーサクセスの再現性をつくり出す業務モデリング」で説明した「自分の脳内で自己検証するシミュレーション」に加えて言語化が必要です。

言語化によって顧客伴走の成果は大きく変わります。特に顧客との接点が多く対話の時間も長いカスタマーサクセスでは、言語化にこだわる必要があります。

なぜならカスタマーサクセスにとって一番大切な仕事は、顧客に行動変容を促すことだからです。

行動変容のきっかけを作るときに、顧客が動きやすい、もしくは顧客を巻き込みやすい言葉を使うだけで、顧客と相対するカスタマーサクセスマネージャー(CSM)のパフォーマンスが大きく向上します。

言語化は感覚的なものであり、フレームワークなどを活用して合理的に考えるものではないと思われるかもしれませんが、決してそうではありません。

たとえ感覚的なものが中心の世界であったとしても、カスタマーサクセスの活動において、合理的に再現性を担保する有効なポイントは存在しています。

今回はカスタマーサクセスのパフォーマンスに影響を与える言語化を説明していきます。

カスタマーサクセスにとって「言語化」はなぜ大切なのでしょうか。

それについて考えるにあたり、カスタマーサクセスの活動でどのような状況で言語化が求められるかを整理しておく必要があります。

それは、言語化が求められるのは、顧客伴走で顧客をサクセスへと導くときです。

カスタマーサクセスが主導する顧客伴走」でも説明したように、顧客伴走の最終ゴールは顧客自身が走れるよう伴走をやめることです。それを実現するためには、顧客業務の問題構造や根本原因を突き詰めていき、顧客を動かす「問い」を設定することになります。

直接働きかけるのではなく「問い」として質問する理由は、顧客自身が自発的に変化することが大切だからです。

周囲が働きかけて顧客が変化しても、それは一時的なものにとどまってしまうでしょう。だからこそ顧客が認識していない気づきを与えられる問いを言語化することが重要となります。

顧客自らに進んで行動を変えてもらえるかどうかは、カスタマーサクセスが筋の良い問いを立てられるかにかかっているのです。

カスタマーサクセスの「問い」が顧客を突き動かす

カスタマーサクセスが筋の良い問いを立てられるようになるためには「あなたは本当に顧客理解できていますか?」でも説明したカスタマーサクセスの心得三カ条が基本となります。

これらはどんなCSMにとっても必須のリテラシーです。しかしこれだけ備えていても顧客を動かすことはできません。

なぜなら顧客を動かすためには、CSMが顧客にアウトプットを提供する必要があるからです。

CSMの多くは顧客理解を意識しており、顧客に対する共感力は強いはずです。しかし、CSMが顧客を理解し共感していることは相手に直接伝えなければ届きません。

つまり三カ条を土台にして顧客を動かすための関係を構築する、言い換えれば顧客が動き出せるような共通言語を作っていく活動が必要です。

そのためには自分が共感した内容を相手に共感してもらえる言葉に落とし込まなければなりません。CSMは顧客と対等ではなく言語化をリードしていく存在になることが重要なのです。

顧客の言語化力が高い場合は良いでしょうが、毎回そういうわけにはいきません。もし言語化が苦手な顧客ならば、CSMがリードすべきです。

共通言語化を顧客と共に実施する際には、顧客の状態に合わせてカスタマーサクセスの立ち位置を変えていく必要があります。

言語の抽象度をコントロールする

共通言語化するには顧客との対話が必要になるものの、最優先課題を浮き彫りにするには、やみくもに問いを投げかければいいわけではありません。

筋が良い問いの土台となるものが言語化力です。その言語化力を高めるための重要なポイントは、「言語の抽象度」になります。

抽象的な言葉だけでは具体的な実態把握が難しいですが、具体的な言葉だけでも全体把握ができません。

顧客が語る具体的な内容が、全体の中でどうつながるかは当事者以外には把握しづらいものです。それぞれの話題の関係性を知るためには、それらの関係性がわかる粒度まで言葉の抽象度を高める必要があります。

例えば「りんご」という言語の抽象度を上げようとすれば「果物」でもあるし「甘い食べ物」でもあるわけです。もしくは赤色や日本産などの高めかたも可能です。抽象度はさまざまな切り口で調整できます。

このとき、気をつけるべきことは具体的な対象物との関係性です。

先程のりんごの横にレモンを並べたときに、これらは「果物」として抽象度を上げることは可能ですが「甘い食べ物」は相応しくないでしょう。通常ならば果物は甘いとしても違和感はありませんが、レモンが含まれてしまうと「甘い」という表現は不適切になります。

こういった関係性を見抜くためには、具体もしくは抽象のみの把握だけでは不可能です。

必要なのは「抽象度のコントロール」です。

こう書くと難しく感じるかもしれませんが、抽象度コントロールは日常会話で多くの人が自然と使っています。

抽象度を上げて抽象化したい場合には「それって要するに・・・」といった一段視点を上げる問いをします。また抽象度を下げて具体化にしたい場合には「それは例えば・・・」といった一段視点を下げる問いで聞けばよいのです。

つまり抽象度のコントロールは誰でも自然とやっていることになります。気をつけるべき点は、本質を突く適切な言語を見つけるために対話を通じて抽象度を意識的に上げ下げすることです。

カスタマーサクセスに必須の言語化スキルは具体と抽象の往来

顧客が動き出す共通言語を見つけられるCSMは抽象度を上手にコントロールしています。つまり抽象と具体の行き来をスムーズにできることがカスタマーサクセスの職種としての市場価値につながっているのです。

カスタマーサクセスに関わらず、具体と抽象の行き来ができるスキルは非常に重要なものですが、カスタマーサクセスで強く求められる理由としては大きく2つの背景があるでしょう。

1つ目は顧客との関係構築に失敗が許されない職業である点です。カスタマーサクセスはサービスビジネスにおいて、営業職やマーケティング職よりも深い顧客理解を求められます。

2つ目は一般的なキャリアパスが固まっていない点です。カスタマーサクセスは職種としての市民権がまだ十分ではないため、業務範囲が幅広くなりがちで、セールス、マーケティング、コンサルティング、サポート、開発など、さまざまな職種が本来もっている役割を担う場合があります。

そのため、これらの職種で当たり前のことや培ってきた知見をカスタマーサクセスの文脈で顧客に伝えていくことが必要です。それは従来の手法をカスタマーサクセスの文脈で伝える場合もあれば、カスタマーサクセスならではの新しいアプローチとして作り替えたものを伝える場合もあります。

つまり、従来の他職種の常識や顧客からの期待値などをカスタマーサクセス文脈に変換することが必要であり、そのためには従来の具体的な内容を一度抽象化して、応用・活用できるところを抽出し、カスタマーサクセスの場合に置き換えるとどうなるかと具体化しなければならないのです。

またサービス自体を特定顧客に限らず、複数顧客に広く適用させることもカスタマーサクセスのミッションになります。

複数顧客にサービスを適用してスケールさせるには、偶然うまくいった個別対応ではなく再現可能な方法を用いなければなりません。そのためには、複数の成功事例の関係性を見抜いて抽象化して体系立てていくことが必要です。

カスタマーサクセスの「愛」は定量化できるか?

ここまで言語化について説明してきましたが、言語化だけ努力したところで、それだけでは顧客を動かすことはできません。なぜなら顧客を動かすときには数字が必ずといっていいほど求められるからです。

ではカスタマーサクセスにとって数字はどこまで必要でしょうか。

物事を進めるためには数字は必要でありつつも、数字だけにこだわって顧客対応することも難しいのが実態でしょう。だからこそ数字を取り入れるバランス感覚が大切です。

当然サービスの利用実態などの基本として抑えるべき数字はあります。しかしその数字だけを顧客に伝えることの価値はどれほどあるのでしょうか。

取得できる数字を伝達するだけでは、カスタマーサクセスとして顧客に十分な価値を提供できているとはいえません。そのため数字を活用して、提供価値を高められるよう工夫をする必要があります。

その工夫とは、数字を用いながら顧客の行動変容を促す言葉を作り出すことです。言語化には数字の活用も欠かせないのです。

ほぼ全てのことは数値化できる

顧客に行動変容を促すためには、顧客が求めることに対して定性と定量の両方を織り交ぜながら動機付けを図ることが必要です。

では、どういったものが数字に置き換え可能でしょうか。答えは、ほぼ全てのことが数値化可能です。

例えば「愛」を数値化しようと試みた場合に、「愛」そのものを数字に置き換えることはできません。

しかし、「愛」がきっかけとなった行動自体は計測可能です。例えば、一緒に過ごした時間の長さ、会いに行った回数、メッセージのやりとりした頻度など、何かしら「愛」にリンクした行動として捉えていくことは可能です。

カスタマーサクセスの顧客に対する「愛」そのものはいくら言葉を尽くしても伝わりません。しかし「愛」がある故に行動したCSMのアウトプットを数値として伝えれば、「愛」も顧客に伝えることが可能です。

素晴らしいストーリーも数字がなければ相手には届かない

顧客との関係性が十分ではない場合、自分の気持ちを単純に伝えているだけでは、自社に利益誘導していると顧客からは受け取られる可能性があります。

カスタマーサクセスが顧客に対して強い気持ちをもっていたとしても、誰もがそうだと思える合理的な情報や事実がなければ顧客には響きません。

顧客からの納得感を引き出すには、数字のように揺るぎない事実が説明に含まれる必要があります。

特定のお客さんにすごく響いたストーリーがあったとしても、それは関係性があった上で成立したにすぎません。そのストーリーの訴求効果を広げていくためには数字が必要不可欠です。

この言語化と数値化は突き詰めればバランス感覚になるでしょう。言葉だけでは白々しく、数字だけでは無味乾燥で熱量が無くなってしまいます。

バランス感覚を身につけたCSMが顧客理解を正しくしているからこそ、顧客を動かす言語を導き出すことができるのです。

実際にカスタマーサクセスのヘルススコアとタッチスコアには相関関係があるため、顧客理解をベースにしたタッチポイント設計ができれば、ヘルスコアも自ずと上がっていくことになります。

数字を活用すべきケースと数字だけに頼ってはいけないケース

CSMは顧客伴走の中でさまざまな課題を顧客からぶつけられるでしょう。

顧客から発せられた課題は、顧客自身にとっては非常に重要な内容かもしれませんが、カスタマーサクセスが率先してその課題に対応するかは別問題です。

課題としての対応優先度を判断するときには、その課題の大きさを数字に置き換えてみて、どれほどのインパクトを与えるものかを確認しなければなりません。

例えば顧客業務の50%以上の工数に影響を及ぼすのであれば早急な対応が必要です。しかし業務全体への影響が1%にも満たない工数の場合では、貴重な社内リソースを割いて素早く対応することはカスタマーサクセスとして正しいことでしょうか。

そういったケースでは、サービス改善以外に業務ルールの見直しなど、別の解決策を模索すべきでしょう。

このように顧客の悩みという感情的な対象であっても業務全体への影響を定量化することで、課題の優先度の重み付けができるようになります。これは、数字を積極的に活用すべきケースです。

一方で気をつけなければいけないケース数字の「独り歩き」です。

ある数字をベースに議論が進んでいくと、その数字を設定した背景や論理的な判断が取り残されてしまうことがあります。そうすると数字達成だけが目的となり、本来やるべきことがないがしろにされるという本末転倒になる可能性もあります。

数字を活用するときは、活用すべきところを把握していることが非常に重要です。

数字の納得感を与えるためには言語化が欠かせない

意思決定のために数字は必要不可欠であるため、顧客から聞いた問題の大きさや重大さは、対話の中で数字を捉えながら探っていくことになります。

その際、言葉の抽象度をコントロールすることによって問題の重要性を確認することが必要です。

具体的な問題になればなるほど数値化は容易になりやすく、業務全体の中でどれぐらいの影響を及ぼすのか確認できます。一方で抽象度が高い課題の数字は、捉え方によって解釈が異なります。

数字は一つの事実を示しているに過ぎません。重要なのは顧客にとって納得できる数字として説明することです。

抽象度が高い課題に対して顧客の合意を得るためには、納得感がある表現をする必要があります。その一つの表現方法が、モデリングです。

抽象度が高ければ高いほど、課題の捉え方は千差万別ですが、顧客理解の解像度を高める思考の再現性はモデリングにより担保できます。

カスタマーサクセスが納得感のある主張をするためには、数値化と言語化の双方にこだわらなければなりません。

組織内で独り歩きするキーワードを生み出そう

カスタマーサクセスは数字を活用して、定量と定性をバランスよく取り入れた言語化をしながら顧客伴走していきます。

顧客伴走を成功させるためには、顧客理解した上で顧客自身に行動してもらうための動機付けが必要です。動機付けするためには、カスタマーサクセスの提案内容に顧客が共感することが前提条件となります。

ただ単に顧客の悩みや課題を素直に聞いているだけでは顧客から共感を得ることは難しいでしょう。共感を得るための共通言語をアウトプットすることが必要です。

確認すべきは顧客の「話」ではなく「認知」

カスタマーサクセスにとっての顧客理解とは顧客の「話」を聞くことではありません。聞くべきは顧客の「認知」です。

顧客の「認知」を確認することは、顧客が話している内容自体ではなく、対話を通じてカスタマーサクセス側で言語化した問いに対する顧客側の解釈を確認するということです。

つまり、顧客からのインプット情報をカスタマーサクセス側の理解というフィルターを通して、顧客への問いをアウトプットし、問いに対する顧客の解釈をインプット情報として得ることになります。

なぜ、このようにして「認知」を確認することが大事なのでしょうか。

それは、顧客が言語化に苦戦して適切な表現を見つけられていない場合や、顧客がそもそも課題自体を認識していない場合があるからです。

このような顧客からのインプット情報だけでは欠けてしまうポイントを補うために、カスタマーサクセスが顧客との対話で課題の抽象度をコントロールし、顧客からのより本質的なインプット情報を得ていくことが必要です。

これこそが、顧客との共通言語を探っていく活動の近道でしょう。

共通言語を生み出せば勝手に広がる

顧客伴走を通じて重要な共通言語を端的な言語で表現できると、それがキーワードとなり勝手に組織内に広まっていき、関係者全員の認識や理解が揃いやすくなっていきます。

これは「独り歩きする資料」ができた場合と同じ効果があります。良い資料が作成できれば、他人が勝手に引用して拡散するので組織に定着していきます。組織貢献として大きな成果といえるでしょう。

独り歩きするキーワードを生み出すには、顧客の認知を確認することに加えて、共通言語化の手がかりを得ていく対話が必要不可欠になります。

手がかりとなる情報は、関係者と共有するための適切な抽象度に落とし込めていないものが多いものです。

特に顧客との対話で「モヤッとした」ポイントがそれに該当します。モヤッとしているのは、うまく言語化できていない部分であり、共通言語化できれば非常に効果的となる可能性があります。

顧客からの一次情報が言語化のポイント

共通言語化を進めるためには、当事者から直接聞いた一次情報を深掘りすることが重要です。

例えば「はい」という回答も、それまでのコンテクストや声のトーン、ボリューム、アクセントなどによって意図は大きく異なります。こういった情報を当事者以外から聞いた場合は、伝達者のバイアスにより重要な情報が削ぎ落とされたり、変更されたりしてしまいます。

また、一次情報でなければ「質問ができない」ことも大きな課題です。こちらも当事者以外であれば伝達者のバイアスがかかり、顧客の認知を確認したとしても伝達者の認知となってしまいます。

具体的な一次情報を確認できたなら、抽象度をコントロールしながら共通項を探っていくことができます。そこからカスタマーサクセスが紡ぎ出した共通言語は、独り歩きするキーワードになる可能性があるのです。

なお、顧客との対話で「モヤッとした」ポイントに出会ったときにやってはいけないことは、同じ抽象度で会話してしまうことです。

うまく言語化ができてない言葉は、フワッとしており抽象度が高くなっています。そのときに具体的な問いではなく相手に合わせた抽象度で会話してしまうと、その場の会話としては問題なく終わりますが言語化としての成果は何も得られません。

抽象度の高い会話は合意を得たいという思いが強いと起きやすいのですが、顧客の行動変容を促す話や、問題の本質の話からは遠ざかってしまいます。

正しく言語化すると世界が変わる

独り歩きするキーワードを言語化することは顧客の行動変容のわかりやすい目安になりますが、それは1つのアウトプットに過ぎません。

顧客伴走を通じて顧客の気持ちが前向きになる、新しい取り組みを始めて顧客の行動が変わっていく、こういった場面は多くの現場で起きることであり、カスタマーサクセスが顧客に貢献していることの表れです。

顧客が行動変容する兆しとして、顧客から「これが言いたかった」「前から部下に伝えていたつもりだが、まさに言いたいことはこれなのだ」などの言葉をいただくことが挙げられます。

顧客側がそういった言葉を発する理由は、自分の意思が組織に理解されていない状況を打破できるかもしれないという期待をもち始めたからでしょう。

この顧客の心境の変化は、言語化により顧客のゴール自体を変えるキーワードを生み出したからではありません。ただ単に関係者の認知が一致するキーワードを探し出しただけです。

つまり、関係者が合意できる言葉に変えるだけで世界が大きく変わるということです。だからこそ言語化に真摯に取り組むことが重要となります。

事実と予測を区別する

定性的なやりとりが多くなる言語化において、確実に成果を出していくには、事実を正しく捉えなければなりません。

そのためには、事実と予測を区別することが重要です。

事実はそれ自体動かしようのないものであり、話し手により異なることはありません。しかし予測は話し手の考えであり、話し手が変われば主張内容は大きく異なります。そのため予測を説明する場合には、その根拠となる事実も併せて示す必要があります。

普段の会話で事実と予測が混ざるのはよくあることですが、そういった会話は関係者の認知を揃えていく点では望ましくありません。

共通言語を作ろうとする場合には、話し手が事実と予測を区別して言語化を心がけるだけで、受け手は理解しやすくなります

言葉の定義にこだわる

言語化では過不足なく説明する意識が大切です。端的なキーワードとして共通言語化できれば、それに越したことはありません。しかし現実には、そのようなキーワードを見つけ出すことは難しいものです。

最初から端的なキーワードを見つけ出そうとするのではなく、まず誰に対しての共通認識を作り出すかを設定することが重要です。例えば、オフィス業務に使用する商用ソフトウェアのような不特定多数が使うツールなのか、企業の一部だけで使われるツールなのか、共通言語化の対象範囲によって大きく異なります。

そのときに大事なことは、キーワードの端的さよりも関係者の共通認識作りに注力することです。

もし既存のキーワードに副詞や形容詞を加えて共通認識が作れるのであれば、端的である必要はありません。

共通言語化の目的は、絶対の正解を作ることではなく関係者の納得解を作ることです。極端に言えば、一般認識とかけ離れた意味合いで使われるキーワードであっても、関係者内で相違なければ問題ないことになります。

言葉は受け手によって解釈が異なる可能性があります。それは仕方のないことですが、だからといってないがしろにして良いわけではないのです。

受け手に正しく理解してもらう言葉を紡ぎ出す努力は惜しんではいけません。共通認知を生み出すためには、言葉の定義にどこまでこだわれるかが重要です。

業務モデリングの世界では、言葉の定義にこだわる人ほどきれいにモデリングできる傾向があります。良い業務モデリングをできる人は、相手の認識齟齬をどれだけ減らせるかに徹底的にこだわっています

業務モデリングのような科学的アプローチが主体となる領域でも、言葉にこだわっているのです。こだわりがあるからこそ、関係者全員を同じ方向にむける共通言語を探し出せるのです。

カスタマーサクセスも顧客と自社の関係者全員に理解のズレが起きないよう、認識が一致する言葉を選ぶ努力をする必要があります。

言葉の定義にこだわれないのであれば、独り歩きするキーワードを作ることは不可能でしょう。

全ては顧客との信頼関係性があってこそ

言葉の定義にこだわることは顧客との信頼関係があってこそ成立します。

信頼関係がない段階で言葉の定義や具体化にこだわってしまうと、対話が面倒だと思われ顧客に離反されやすい状況を作り出してしまう可能性があります。

そのような段階では、あえて抽象度を上げたままにすることも必要です。

総論賛成・各論反対という言葉があるように、顧客との関係性が不十分な中で、具体論から認識合わせをしていけば失敗する場合も、事業方針のような抽象度が高い話であれば最初から否定されることはまずありません。

事前に議論の大枠で合意しておけば、具体議論に入ったときに想定外の話題になったとしても、すでに合意した枠内であれば顧客はその話題に興味をもってもらえる可能性が高いはずです。

大枠の合意が取れていなければ、顧客一人ひとりの枠が基準となるため、それから外れている話題だとしたら、まず興味をもってくれないでしょう。

カスタマーサクセスが言語化でめざすべきことは、議論の大枠に含まれている内容で顧客が認識していない示唆を与えることです。

この示唆は顧客の行動変容のきっかけになります。顧客が認識していない本質的な課題にたどり着くために、具体と抽象をコントロールしながら会話できなければいけません。

もちろん、めざすべきゴールのためにはスタート時点での抽象的な会話も必要です。

カスタマーサクセスは顧客接点が多く会話時間も長いため、顧客伴走が顧客の行動変容を促す重要な活動になります。だからこそ言語化を武器にして、顧客に自ら行動を変えてもらい、顧客伴走の成功率を高めていかなければならないのです。

カスタマーサクセスは顧客と社内をつなぐブリッジ組織の役割も期待されています。自社のサービス内容や機能的価値の向上だけでなく、言語化にも気を配ることで、よりブリッジ組織の機能を高めることができます。

カスタマーサクセスが関係者全体の橋渡しになれるかどうかは、言語化の成否にかかっているのです。

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